奈須きのこ「空の境界(上)」

空の境界(上) (講談社文庫)
奈須 きのこ
講談社
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1/俯瞰風景――巫条ビルで起きる連続墜死事件。両儀式のマンションを訪れた黒桐幹也によって事件の概要が語られるとたちまち解決編である。推理ではなく事後説明。話がまったく見えないが、合理的な解決ではないことだけは理解できる。時間のずれについての伏線が張られている。幹也が式を訪ねたのは八月の初め、解決編は八月の終わりだが、幹也は式と会った日の翌日だと思っている。そして、いかにして事件は終焉を迎えたか、式の視点で語られる。どうやら幽霊のようなものの仕業らしい。人の意識に働きかけ、空を飛ばせる。二年間の昏睡から醒めた式は死を視ることができるようになったその能力でそれを殺した。犯人は巫条霧絵だった。蒼崎橙子が彼女の病室を訪ね、確認した。一つの精神に二つの入れ物。お坊さんみたいに難しい名前の人物が気になる。題名だが、俯瞰風景というのはずばりそのもの。世界とはつまるところ自分の周り、見て触れる範囲であるのだが、高い所に立つと、見える範囲だけが大きく広がる。そこで生まれる認識のずれ。日常から非日常へ。こんなテーマがわかるようなわからないような理屈で展開される。そんな話だった。まだ導入なのだろう。追記;続けて劇場版を観てみた。話の筋は大体同じだが、演出、構成は少し手を加えてあった。過去のほのめかしもあったりして。しかし、まだよくわからない。

2/殺人考察(前)――時は大きく遡り、式と幹也の高校時代、記憶を失う前の式が描かれる。式(女)と織(男)の二重人格。他を拒絶する式。連続して発生する猟奇殺人事件。殺人鬼、織。式に惹かれる幹也。それを疎ましく思う式だが、その根底には恋心がある。それゆえに自分を惑わす幹也を憎み、殺意を覚える。しかし完遂はできず、何かが起こり、式は二年間の昏睡状態に陥ることとなる。あらすじはこんな感じだ。構成は変則的。「空の境界」の序と題された文章が、この章の最後に置かれている。そしてこれから何かが起こるという予告文らしきものが続く。そこはかとなく面白いのだが、まだわからない。まあ、世界観はFateや月姫と同一らしいから、それを頭に入れて読み進めるとわかりやすくなるかもしれない。追記;劇場版の感想。第二章はほぼ原作どおり。心理描写がない分、テンポよくまとまっていたが、わかりにくくなっていた。気になったのは、映像化されても、式の犯行シーンは描かれていなかったこと。これは伏線だろうか。

3/痛覚残留――1998年7月、「俯瞰風景」の直前のエピソードである。ここでの超能力者との戦いで式は左手を失い、第一章の義手の描写に繋がるのだ。ここでの式が以前とどう違うのかなんとなくわかったような気もするが、気がするだけだ。織がいなくなった式は明らかに織の性質を強く反映している。自分の記憶が自分のものでないように感じられるというのはこの辺りに原因があるのではないだろうか。少しずつ情報が開示されてきて、これから伏線として機能しそうな箇所もちらほらと。『荒耶宗蓮』というのが巫条霧絵にきっかけを与えたお坊さんみたいな名前の人かもしれない。魔術師・橙子の古い知人だというが、これは「殺人考察」の最後に置かれていた、誰のものともわからない文章の書き手と一致するのではないか。第二章のエピローグで、三人についての説明がそれぞれ誰を示しているのかわかり、内二人はすでに死亡。だがいまだ物語が動く気配はない。上巻だから、ここまでが壮大なプロローグなのかもしれない。超能力、死、殺人鬼、直死の魔眼、痛み。医学的な人格の定義は、プログラムそのもので、わたしが常々抱いていた考えと一致していて、恐悦至極でございました。追記;そして劇場版。時間の都合上、省略された部分が多いように感じられた。一方で小説では暗示されただけでよくわからなかった部分(先輩の正体)がはっきりと描かれていた。映画として小説の内容を確認すると、ミステリ的なハイライトがよくわかった。抽象的にいえば残留する痛覚の謎である。そういえば読んでいるときは、痛みの正体は陣痛だと思って読み進めていたのだった。どうでもいいけど。
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