「あなたが名探偵」

あなたが名探偵 (創元推理文庫)
小林泰三 霞流一 泡坂妻夫 法月綸太郎 麻耶雄嵩 芦辺拓 西澤保彦
東京創元社
売り上げランキング: 388138

泡坂妻夫「蚊取湖殺人事件」――挑戦を受けたので推理してみた。犯行時刻は午後10時頃。関係者全員にアリバイがあった。嵐が来たのは12時。犯行現場には釣りの穴と嵐以前に落とされた煙草の灰があった。しかし小田桐医師の話によれば、それは反対側の湖畔にないとおかしい。ここまででトリックは明らかだ。氷の足場ごと風で移動したのだ。つまり犯人は東側にいた人物で、かつ病院の関係者である。小田桐か梅田か。消去法でいえば、犯行現場の問題から小田桐は除外され、梅田が犯人ということになる。積極的な理由は見つけられず。動機については、梅田が再婚直前だということ、長沼と会ってから様子がおかしかったことからある程度推測できる。だから物的証拠がないことが問題だ。包帯だけでは不十分だと思う。解答編;ほぼ推理は的中。なんと包帯が証拠だった。完璧主義者の私はこういう場合でも詰めが甘い。

西澤保彦「お弁当ぐるぐる」――謎は空っぽの弁当箱と空っぽの胃と空っぽの蔵。中身はどこへ行ったのか? 方針が見えないので事実を羅列してみよう。死亡推定時刻は正午頃。死因は脳挫傷。凶器はフライパン。死に際に新聞紙を掴んでいた。第一発見者は保険の外交員で2時過ぎ。玄関の鍵は開いていた。蔵の中身がごっそり消えているという妻の証言。大規模な窃盗にもかかわらず目撃者がいない。妻が作る弁当は不味い。被害者は食に飢えていて、息子の嫁に金を無心していた。犯行時刻のアリバイがある関係者はいない。このくらいだろうか。全員にアリバイがないのでそれについては無視できる。誰が可能だったかではなく、誰がやったかを証明しなくてはならない。最もシンプルな解答は妻が犯人というものだが、意外性のかけらもないし、決定的な証拠も見当たらない。心理的な謎解きならもうお手上げだ。弁当の問題に集中してみると、弁当箱は空で洗ってあり、中身は被害者の胃にはなく、犯行現場付近で処分した様子はない。そこで犯人が食べたという可能性が浮かび上がってくる。ではなぜ不味い弁当を食べたのか? どうしても処分しなければならない理由があった。それは何か? わからない。あるいは中身など最初からなかったという可能性も考えられる。この場合、事件の経緯は至ってシンプルで、まず何らかの理由で妻が弁当を作らなかった。そして昼に昼食を作るために帰宅する。そこでトラブルになり、殺害してしまう。アリバイ工作のために弁当を作っていたことにし、ついでに狂言窃盗も思いついた。と、こんな感じである。残念ながら証拠がまったくない。解答編;大ハズレ。しかし物的証拠は皆無だった。まあこういう推理も必要なのか。証拠は後で集めればよい。果たして探偵役の推理は真実を映しているのか? これはゲーデル問題だな。

小林泰三「大きな森の小さな密室」――余分な情報はほとんど見当たらない。ていうか、伏線も見当たらない。ポイントは三つ。密室はどのようにして作られたか? 「計画が狂ってしまった」の意味するところは? 徳さんはなぜ廊下に座り込んだのか? たぶん大胆な構図の転換があるはずだ。諦めよう。解答編;見事にやられた。ハウダニットではなくホワイダニットだった。推理はオーソドックスだがどこかポンコツ。解答編の最初の部分で問題編の最後に、ひとつ目くらましがあったことが明らかになる。これは叙述トリック物という分類になるのか。しかしここへ来てわかってきたぞ。必ずしも推理する必要はなく、犯人を指摘するだけでよいのだ。すべてが綺麗に収まる解答を思いつけばそれでよい。証拠とか論理的整合性とかは二の次。

麻耶雄嵩「ヘリオスの神像」――密室トリックは種明かし済み。したがって謎はHOWではなくWHY。明らかな他殺体を室内に残してなぜ密室を作ったか? そこには何らかの必然性があるはず。ヒントは出しっぱなしで止まったガス、にもかかわらずガス臭のない密室、それと出しっぱなしの水。ガスの臭いに関しては、火をつけていたと考えれば疑問は消える。とろ火で半日以上なら強火で数時間ということだから時間的にも問題はない。ではなぜ火をつけたのか? コンロの上には何も載ってなかった。エアコンの温風と合わせると、部屋を暖めることが目的だったと考えられる。何のために? 例えば、濡れた絨毯を乾かすためとか。しかし水が填まらない。諦めた。解答編;大ハズレ。もっともな解答だった。犯人を特定するには多角的な検討が必要なのだ。しかし香月はひねてるな。

法月綸太郎「ゼウスの息子たち」――殺人に不可能趣味はない。あるとすれば藤堂氏が犯人だった場合のアリバイの問題だけ。問題は強請りのネタだったと思われる二組の双子の夫婦に関する「偽者」という言葉。これは被害者のダイイングメッセージであり、犯人を直接示しているので、ここに秘された意味を知ることが解答に直結する。人間関係をシャッフルして意外な真相を描き出すのが作者のお得意のパターンなのでその辺りを重点的に考えたい(謎解きの視点がメタでなんか情けない)。新婚旅行先で弟と妹の夫婦が死んでいる。兄の達也はボクシング経験者で耳に特徴があり、亡くなった和也は野球ではなくて乗馬が趣味だった。ところで、神話では乗馬が得意なのは兄、拳闘が得意なのは弟であり、さらに死んだのは兄なので、まるっきり正反対である。また、犯行現場となった客室の向かいに宿泊していた二人は、芸能人の偽者だった。スキャンダルを捏造することが目的である。これらが示唆するのは弟夫婦は死んでいないという可能性だ。二人一役掛ける二で四人二役である。四つ葉ホテルで入れ替わることで、達也と沙織としての人生を半分ずつ受け持っていたとすると、永遠の命を半分ずつ与えられたという神話とも合致する。しかし決定的な証拠がない。結婚披露宴の写真が証拠だから、ビジュアル的な証拠がそこに写っているはずだ。左右対称で素晴らしかったという支配人の感想と双子の性質上、身体的にも左右対称だったのではないか? 利き腕が違うとかいうのはよく聞く話だ。互いに決められた相手だったというのは政略結婚という意味ではなくて、何らかの身体的な特徴に心まで結びつける効果があったということでないか? しかしそれでは入れ替わりに難があるのでよろしくない。では、こういうのはどうか? 兄弟、姉妹の片方がそれぞれ性同一性障害だったという可能性だ。ここで他の可能性も検討しておこう。双子の入れ替わりの余地があるのは、①誰も死んでない場合、②兄が死んだ場合、③姉が死んだ場合、④弟が死んだ場合、⑤妹が死んだ場合、⑥兄と姉が死んだ場合、⑦兄と妹が死んだ場合、⑧弟と姉が死んだ場合、⑨弟と妹が死んだ場合、これら九通りであり、事実とされているのは⑨である。……と、まあ、ここまでつらつらと書いといてなんだが、思いついてしまった。藤堂兄妹と遠山姉弟だったのではないか。これなら双子どうしでも三角関係にはなりようがない(特殊な場合を除いて)。当事者たちの話にもこの解釈で矛盾は生じない。では双子の入れ代わりとは、偽者とはどういうことだろうか? 双子の夫婦での入れ替わりはありえないというか現実的に無理だ。すると恐喝のネタは藤堂夫妻に関するものではなく、他の関係者が実は双子で、しかも本物のふりをしている偽者だったとしたら、それは一人に絞られる。深夜二時で、ラム酒が少し回っているので調子に乗って解決を試みたいと思う。「さて、今回の事件ですが、おそらく勘違いしていたのは私だけでしょう。少し、弁解させてください。昨日、ホテルに到着してまもなく、支配人とお話ししました。そのとき私が聞いたのは、オーナーの藤堂さん夫妻は双子の兄と姉どうしで、弟さんと妹さんも同時に結婚されたということと、弟さん夫妻が新婚旅行先の地中海で事故に遭われて亡くなられたということでした。固定観念とは恐ろしいもので、私はてっきり達也さんと和也さんが兄弟で、沙織さんと香織さんが姉妹なのだと理解していました。しかし、そうではないですよね? 名前が似ていたから、というのは完全ないいわけですね。現にオーナーも支配人も会話の中ではっきりとではありませんがそうおっしゃいましたから。しかし、勘違いしていても会話というのは成立するものですね。けれどその勘違いのおかげで犯人がわかったのですから、怪我の功名というか何というか。(以下省略)」解答編;まあ細かいところのつじつま合わせは放棄したので完璧とはいわないが、ほぼ正解。叙述トリックで犯人当てとはやってくれたな、法月よ。

芦辺拓「読者よ欺かれておくれ」――開いたドア。そこから見える鉄火面を被った裸の女性。首にはロープが見えて死体のようだ。室内に入ろうとすると、加速度的にドアが閉まり、鍵がかかったように開かなくなった。鍵を取ってきてドアを開けると、中には死体どころか誰もいなかった。窓にも鍵がかかっており、ひとつしかない鍵のことも考えると、密室状況であった。そしてどこにもいないかすみが、翌日屋外で死体となって発見される。犯人は誰か? 前書きを読み返すと、答えが降ってきた。探偵役は飽くまでも森江春策なのだが、彼は問題編には登場していないのだ。確認してみたら、一度も“森江春策”とは書かれていなかった。つまりこの森江は別人。しかも女性のファーストネームだ。その根拠はふたつある。ひとつは森江が盗み聞いた品川とかすみの会話、「――でも、それを言ったら、あの女も相当じゃない? あんな鬱陶しい奴、襟裳岬あたりから真っ逆さまに突き落としてやったら?」「何だい、そりゃあ。相変わらずキツいが、座布団一枚進呈といこうか。――」最初は客の中で残る女性は路子だけだと思っていたので、意味がわからなかったが、襟裳を逆から読んだらモリエである。もうひとつは、作者が述べた「容疑者の一人と君がくっついていたら面白いことになったろうと」という発言。言うまでもなく「森江森江」という名前が出来上がるからだ。すると、密室トリックも自ずと解ける。まず夕食後、森江は亀尾の部屋のドアに、通子を装って手紙を挟んでおく。そして翌午前一時までのどこかでかすみを殺害する。場所はおそらく死体発見現場だろう。そして展示室で裸になり、首にロープを巻きつけ、鉄仮面を被って、椅子に座り、亀尾が通りかかるのを待つ。ここでひとつ問題が、ドアを閉めるのはひとりで可能だろうか? 彼女の全身は亀尾の視界にあり、死体のふりをしている。機械的なトリックは使わないと宣言されている。しかもドアは外開き。しかしこの状況は森江が最初に展示室に入った際の描写と矛盾する。あのとき、少し開いていたドアは、「ノブに手を触れるか触れないかのうちに」開いたのだ。風が吹いていた様子はなく、外開きならば、ノブを握らなければ開けることはできない。ここで展示室の性格が重要となる。ミステリ的趣向が凝らされた部屋なので、おそらくドアに仕掛けがあって(浮き彫りはその伏線)、内開きにも外開きにもなるのだ。常識的な考えに照らすとノブを右に回せば内開き、左に回せば外開きだろうか。確実なのは外開きにするには特殊な操作が要求されるということである。これだと、亀尾がドアを開けられなかったことと、ひとつしかない鍵を竜堂が持っていたことと、森江が亀尾からわざわざ鍵を受け取ったことに説明が付く。ここで話を元に戻して、問題はどうやってドアを閉めたかだが、機械的なトリックを使わないとなると、難しいと思う。蓄音機というそれっぽい物がせっかくあるのに使えないからだ。そこで修正案として、あるいは死体は本物で、部屋の中に森江が潜んでいたのだろうか。その場合、亀尾の立ち位置はドアの正面のはずだから、ドアの開き具合によっては彼に気づかれず閉めることは可能だし、死体は彼が鍵を取りにいってから戻ってくるまでに向かいの自分の部屋に運び込めばよい。また、亀尾が目撃した首の赤い筋の説明も付く。その後朝までの時間に死体を運べばよい、というのは現実性に欠けるか。それと、共犯については否定されてないので、それについても検討しておかなければならない。ひとつ気になっているのは、冒頭の生首が発見されたというニュースだ。もしこれが絡んでくるなら、亀尾が見たのは首なし死体だったという可能性も出てくる。すると共犯は竜堂かレダ。冷蔵庫の描写がそれを暗示しているように思えてくる。しかし理由も証拠も見当たらない。この辺りで一度整理しておこう。鍵の問題から、森江が犯人なのは間違いない。しかし犯行全体として一人で可能だったかという点については疑問が残る。そこで共犯の可能性を検討したのだが、どうも上手くない。辻褄を合わせるのなら、まず亀尾に手紙を残し、外で森江がかすみを殺す。そうしてペンションにいた人物には犯行が不可能だったと見せかけるために、午前一時に亀尾に死体を見たと思わせる。それには共犯が必要で、着替える時間を考えると、死体役はその共犯。路子には動機があるのか。しかし、これではごちゃごちゃしすぎているし、きっと違う。機械的なトリックを用いることなく、ドアを閉める方法を思いつきさえすれば、最初の仮説ですべて説明できるのだ。一般的なドアにばね仕掛けで自動で閉まるものがある。外開きのドアはそれではないだろうか。それにストッパーを噛ませておいて、亀尾に気づかれない程度の動作で、外すことができれば、密室は完成する。亀尾がドタバタと駆け回っているうちに、自分の部屋に戻って着替えてから、亀尾を引き止めて、竜堂が来るのを待ってから鍵を開けたふりをすればよい。これで結論としよう。現在午前四時過ぎ。推理を始めて八時間、これを書き始めて五時間、森江の正体を見破ってから二時間。まあ、こんなものだろう。解答編;はいはい。私が複雑に考えすぎました。ドアの構造なんてまったく関係なかった。要するに、ミスリーディングの構造としては、密室がある。中にあった死体が犯人の演技だったとしたら、犯人は女性である。しかし、密室の開帳に立ち会った(密室を構成することができた)人物の中に女性はいなかった。じゃあどうやって密室は作られたのか? というもので、性別誤認を見破れば、犯人は明らかだという結論。そしてお遊び的な回文。私は森江が女性であるという結論には至ったものの、悲しきミステリ読みの性で、伏線から導いたのではなく、その可能性を思いついてから伏線に気づくという、なんとも残念な思考回路である。しかしまたしても叙述トリック。簡単かつ意外な物理トリックはもはや残されていないらしい。アイディア勝負だから、知的財産権の問題やジャンル全体として積み上げてきたものが書き手を相当制限している。本格はどん詰まりだというのも頷ける。

霞流一「左手でバーベキュー」――消えた左手。焼かれた左手。汚れた袖。消えた紙マッチ。割れたガラス細工。なぜか外にあった破片。止まっていた腕時計。こぼれたニス。左手を処分することができたのは誰か? なぜ切断して焼かなければならなかったのか? なぜの方は左手に犯人を指し示す証拠があったと考えれば説明できる。傷とか、ダイイングメッセージとか。機会に関しては、死体発見前か後かという問題がある。もし前ならそこに何らかのトリックが必要で、機械は誰にでもあった。後ならトリックは必要なく、気になる点がひとつ。死体発見は午後五時過ぎ。小野寺が紅門に知らせに来たのは五時十八分。時間がかかりすぎではないか。しかし飽きた。諦めて明らめよう。解答編;伏線は回収されつくした。袖の汚れが血だと明記されていたら、私も真相にたどり着けたかもしれない(ちなみに私は千夏の描写から煤か何かかと思った)。また仰向けとうつ伏せというのは検討したが、あまりの現実性のなさに放棄したのだった。
スポンサーサイト



検索フォーム
最新記事
リンク
カウンター
カテゴリ
月別アーカイブ
RSSリンクの表示
カレンダー
06 | 2010/07 | 08
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
QRコード
QR